妊娠中の「つわり」は多くの妊婦さんが経験するものですが、中にはその症状が強く現れ、日常生活が困難になる場合があります。そのような状態を「重症妊娠悪阻(にんしんおそ)」と呼びます。
この記事では、重症妊娠悪阻とは何か、どのような症状があるのか、原因や治療法、そしてご自身やご家族ができるサポートについて詳しくご紹介していきますので、ぜひ最後までお付き合いください。
重症妊娠悪阻とは
重症妊娠悪阻とは、妊娠初期に起こる吐き気や嘔吐などの「つわり」の症状が非常に重くなり、食事や水分を十分に摂取できなくなる状態を指します。通常のつわりであれば、食事や水分をある程度摂ることができ、安静にしていれば症状が落ち着くことも多いですが、重症妊娠悪阻になると、体重減少や脱水症状などが現れ、医療的な治療が必要になることがあります。
重症妊娠悪阻は、全妊婦さんの約0.5%に発症するとされています。決して珍しい症状ではありませんが、適切な治療やケアが必要な状態です。
重症妊娠悪阻の症状
重症妊娠悪阻の主な症状は、以下の通りです。
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頻繁な嘔吐や強い吐き気
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1日に何度も嘔吐を繰り返し、食事や水分が全く摂れなくなることがあります。
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5%以上の体重減少
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例えば、体重50kgの方が2.5kg以上体重が減ってしまう場合などが該当します。
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脱水症状
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水分が十分に摂れないため、体のだるさ、立ちくらみ、尿量の減少などが現れます。
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尿中ケトン体の陽性
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体がエネルギー不足になると尿中にケトン体が検出されます。これは栄養状態が悪いサインです。
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日常生活が困難になる
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ベッドから起き上がるのも難しく、仕事や家事ができなくなることもあります。
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その他の合併症
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さらに重症化すると、肝機能障害、腎機能障害、脳神経障害(ウェルニッケ脳症)など、命に関わる症状が現れることもあります。
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重症妊娠悪阻の原因
なぜ重症妊娠悪阻になるのか、その原因はまだはっきりとは解明されていません。
しかし、以下のような要因が関係していると考えられています。
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ホルモンバランスの変化
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妊娠によるホルモンの急激な変化が、自律神経の乱れや吐き気・嘔吐を引き起こすと考えられています。
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心理的・社会的ストレス
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家庭や職場でのストレス、夫婦関係の不和などが重症化の一因となることもあるようです。
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体質や遺伝的要素
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家族歴や体質によって、重症妊娠悪阻になりやすい方もいます。
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重症妊娠悪阻の診断
重症妊娠悪阻が疑われる場合、医師は以下のような診断を行います。
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問診
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嘔吐や吐き気の頻度、体重減少の程度、日常生活への影響などを詳しく聞きます。
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身体検査
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脱水症状や栄養状態を確認します。
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血液検査・尿検査
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脱水や電解質異常、肝機能障害、尿中ケトン体の有無などを調べます。
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その他の検査
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他の病気が原因でないかどうかも確認します。
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重症妊娠悪阻の治療
重症妊娠悪阻と診断された場合、以下のような治療が行われます。
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安静
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心身の安静が第一です。ストレスを減らし、十分な休養をとることが大切です。
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点滴による水分・栄養補給
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食事や水分が摂れない場合、点滴で水分や糖分、ビタミン類などを補給します。
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ビタミンB1(チアミン)の投与
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ビタミンB1が不足するとウェルニッケ脳症を発症するリスクがあるため、点滴にビタミンB1を加えることがあります。
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制吐剤(吐き気止め)の使用
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症状が強い場合は、医師の判断で吐き気止めが処方されることもあります。
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入院治療
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自宅でのケアが難しい場合は入院し、集中的な治療を受けることもあります。
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治療をしっかり行えば、ほとんどの場合は症状が改善し、お腹の赤ちゃんへの影響もほとんどありませんので安心してください。
重症妊娠悪阻を予防するために
重症妊娠悪阻を完全に予防することは難しいですが、以下のような対策が有効です。
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無理をしない
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体調が悪いときは無理をせず、十分に休むことが大切です。
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食事は小分けにして摂る
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一度にたくさん食べると胃に負担がかかるため、少しずつ分けて食べるのがおすすめです。
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水分補給を意識する
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嘔吐が続くと脱水になりやすいため、こまめに水分を摂るようにしましょう。
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ストレスを減らす
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家庭や職場でのストレスが多い場合は、できるだけリラックスできる環境を作りましょう。
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早めに医療機関を受診する
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症状がひどい場合や水分も摂れない場合は、早めに医師に相談してください。
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ご家族や周囲の方へ
重症妊娠悪阻で苦しんでいる妊婦さんは、心身ともに大きな負担を感じています。
ご家族や周囲の方は、以下のようなサポートを心がけてください。
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無理に食べさせようとしない
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「赤ちゃんのためにも食べて」と無理に勧めると、かえってストレスになることがあります。
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家事や育児の負担を減らす
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体調が悪いときは、家事や育児を分担し、妊婦さんがゆっくり休める環境を作りましょう。
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気持ちに寄り添う
- 「つらいね」「よく頑張っているね」と声をかけ、心の支えになることが大切です。
重症妊娠悪阻と心のケア
重症妊娠悪阻は、体だけでなく心にも大きな影響を与えます。吐き気や嘔吐が続くことで、気持ちが落ち込んだり、不安が強くなったりすることも少なくありません。
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無理に頑張らない
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「もっと頑張らなければ」と自分を責めず、体調が悪いときは休むことも大切です。
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周囲に相談する
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家族や友人、医療スタッフに気持ちを話すことで、心が楽になることもあります。
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リラックスする時間を作る
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好きな音楽を聴いたり、アロマを楽しんだり、ゆっくりお風呂に入るなど、自分なりのリラックス方法を見つけると良いでしょう。
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まとめ
重症妊娠悪阻は、妊娠中のつわりが非常に重くなった状態で、適切な治療やケアが必要です。食事や水分が摂れない、体重が大きく減少する、日常生活が困難になるなどの症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
治療によってほとんどの場合は症状が改善し、お腹の赤ちゃんへの影響もほとんどありません。
ご自身やご家族ができるサポートも大切です。つらいときは無理をせず、周囲に相談しながら安心して妊娠期を過ごせるようにしましょう。
重症妊娠悪阻について、少しでも不安や疑問がある場合は、遠慮せずに医療スタッフにご相談ください。あなたと赤ちゃんの健康を守るためにも体と心のケアを第一に大切にし、素敵なマタニティーライフを送ってくださいね。
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